里の守りはアルクェイド達に任せて、森を抜ける疾風の様に駆け抜けていく志貴・晃・誠。
と、不意に地面が大きく鳴動した。
「うわっ!!」
「な、なんだ・・・」
「向こうから・・・父さんと紅摩が戦っている場所から・・・急ごう!!」
「「ああ!!」」
七夜の次世代を率いるに相応しき三人は再度宙を駆けて行く。
十一『終戦』
既に周辺の地形は大きく様変わりしていた。
あちこちの地面は大きく陥没ないし隆起して、平坦な足場など何処にも無い。その周囲にはあちこちで巨木が惨たらしく抉られ倒されている。
その地形をもろともせず破壊していくのは全身を真紅に染めた鬼。
その鬼が更に地形を歪なものに変貌させ、それを苦ともせず黒い疾風が荒々しく交差していく。
もうこれで何十・・・いや、何百・・・下手をすれば何千回交差しただろうか?
既に黄理の体力など限界を超え、紅摩の出血は全ての血を放出したかのように一帯を赤黒く染め上げていた。
だが、黄理もまた紅摩に負けず劣らず全身を真紅に染めていた。
直撃などしていない。
掠めてすらいない。
至近の風圧のみで服が裂かれ、皮膚は剥ぎ取られ、肉が抉られ、鮮血が真紅に染め上げ、黄理の全身はズタズタだった。
しかし、それでも二人は戦っていた。
心底楽しかった。
黄理も紅摩もあの戦いの日以来全力で戦う事無く七夜の里で志貴を初めとする次世代の育成に、あるいは研究所で強制的にモルモットとして扱われ、燻っていた。
おそらく互いにもはや燃焼する事無く燻ったまま終わるのだろうと諦めていた矢先、再び二人の鬼神は同じ地で出会いそして戦っていた。
どちらが勝つにしろ負けるにしろ・・・ないし生きるにしろ死ぬにしろ、これが二人にとっては全力で戦う事の出来る最後の機会に違いないのだから。
しかし・・・物事には始まりがあるのなら終わりもまたある。
どんなに足掻いた所でもう二人には長時間戦う力自体が残されていない・・・
不意に二人の動きが止まる。
「黄理・・・お互いもはや時間も少ない・・・けりをつけよう・・・」
「いいだろう・・・」
二人は再度ニヤリと笑う。
先に仕掛けたのは紅摩だった。
不意に残された力を振り絞ったように燃焼の力を発現させたかと思うとあろう事か地面に叩き込んだ。
―紅主・変生(こうしゅ・へんせい)―
だが、その瞬間一帯にまかれた紅摩の血が一斉に爆発的に燃え上がった。
―紅主・泰山(こうしゅ・たいざん)―
ばら撒かれた血は衰える事を知らず爆発的な勢いで周辺全域をたちまち業火の海に変えた。
―紅主・鬼血炎(こうしゅ・きけつえん)−
それどころかその炎は意思を持ったかのように一つにまとまり黄理を飲み込み焼き払わんとする。
「ちっ!!」
黄理は咄嗟に跳躍するが、その跳躍にあわせる様に跳躍した紅摩が直ぐ眼の前に迫っていた。
自身の血の炎で焼かれたのか全身火だるまと化した紅摩の魔手が遂に黄理を捕らえるかに見えた。
しかし、次の瞬間黄理は大きく弾かれるように紅摩から大きく距離を置いていた。
それは生存への本能であったのだろうか。
黄理は左の撥を紅摩の魔手にあろう事か自分から叩き込む事によって、吹き飛ばされ致命的な一撃を回避した。
その反動で紅摩と距離を取ったがその代償は軽いものではなかった。
黄理の数メートル後方に撥を・・・いや、砕かれた撥の柄を握ったままの左腕が転がっていた。
腕と撥をそれぞれ一本・・・それが鬼の一撃から命を永らえた代償だった。
ようやく黄理の肘から出血が起こる。
それを見て舌打ちをしながら残された撥を脇に挟み込み、残された右手のみで止血処理を行う。
そこに・・・
「御館様!!」
「父さん!!」
「そ、その腕は!!」
後ろから志貴と晃・誠が駆けつけた。
「里は?」
振り向きもせず黄理は息子達に問いかける。
「もう敵はいません。今首謀者も捕らえられたとの知らせも入りました」
「御館様、被害も最小限に留めました。現世代で負傷者が多数出ていますが全員軽傷、重傷者・死者は出ていません」
「旧世代・女性・幼子も全員無事です」
「そうか・・・つまり一番の重傷は俺と言う事か・・・まあいい・・・それよりもこれには手を出すな。そして・・・いいか・・・三人共良く見とけ・・・七夜当主のみが継承を許される七技より外された最後の閃鞘を・・・」
そう言うと低く身を構える。
そこに紅摩が暴風の如く突進してくる。
それを見極めて黄理も突っ込む。
ただし極めて遅く。
一見自殺行為とも取れるがそれは違った。
自身の攻撃範囲に入る前に紅摩の魔手が地面にめり込む。
今まで黄理の『閃の七技』・『我流・連星』に代表される七夜の高速戦闘法に眼も身体も慣れてしまった為突然の速度の変化に対応できなかった。
そしてそれが黄理にとって残された最後にして、唯一の勝機だった。
―弔毘八仙、無情に服す・・・―
急速に速度を上げた黄理が目指すのは数万回繰り返し同じ箇所に打ち込んだ結果、僅かに右の箇所にひびの入った首輪。
そこが蟻の一穴となる。
―閃鞘―
その瞬間黄理は姿を消し地に伏せた黄理と上空に舞う黄理、二人の黄理から同時に、『伏竜』・『八穿』が放たれる。
―迷獄沙門(めいごくさもん)―
名状し難い異音が森に響く。
暫し時が止まったように紅摩は立ちすくみ、黄理は直ぐ背後で蹲る。
そして志貴達はその場で硬直していた。
「・・・『双狼』・『八穿』・『伏竜』」
「三つの閃技を複合させた技・・・『閃鞘・迷獄沙門』・・・」
「すげえ・・・」
話には聞いた事がある。
七夜当主の継承の証とも呼ばれる最高位の閃技が存在する事は。
名を『閃鞘・迷獄沙門』。
その破壊力・殺傷力は『閃鞘』の名を関しているにも関わらず、『死奥義』と肩を並べるとも言われる技・・・
しかし、それと同時に黄理は膝を折る。
黄理の年齢で『迷獄沙門』は負担が大きすぎた。
あまりのスピードの激変に足と腕の筋肉はずたずたに切り裂かれ、止血を施した筈の左肘から血が噴き出す。
もはや戦う事はおろか動く事も出来そうに無かった。
しかし、激痛に耐え振り向くと紅摩がその魔手を黄理目掛けて振りかざしていた。
その光景に志貴達三人がとっさに前に出ようとする。
しかし、それは徒労に終わった。
紅摩の魔手は黄理の僅か数ミリで止まっていた。
そう・・・かつて殺しあった時と同じく黄理の腹部数ミリで・・・
「・・・また紙一重か・・・」
「その様だ・・・しかし、またでかい紙一重だ」
黄理は何の感慨も無く呟き、紅摩は薄ら笑いすら浮かべている。
「今回も結末は同じとなったか・・・だが、悔いは無い・・・」
そう呟くと同時に首輪にひびが走り、ひびからは火花が鮮烈に辺りを照らす閃光となる。
次の瞬間首輪は砕け散り、それと同時に紅摩の首がごろりと落ちた。
「そう言うことか・・・それは首輪でなく首そのものだったか」
紅摩の首があったところには配線やら基盤が火花を撒き散らしていた。
更に延髄部分から紅摩の後頭部まで繋ぐ配線が一本、千切れる事無く垂れ下がっていた。
おそらく紅摩の首自体を機械に取り替えて脳と接続させたのだろう。
本人が言っていたではないか・・・『ありとあらゆる手段を講じて蘇生させた・・・』と・・・
「・・・浅ましい・・・限り・・・だっ・・・た・・・が・・・キ・・・サマ・・・ニ・・・デ、デデデデデデ・・・出会い・・・たたか・・・えた事・・・ほ・・・こりに・・・思う・・・」
暫く経ったがその口からはもはや、何も語られる事は無かった。
最凶を誇った紅赤朱・・・軋間紅摩の最期を見届けた黄理が静かに呟く。
「地獄で待ってろ・・・やがて俺も行く・・・志貴」
「はい」
「こいつの遺体を完全に灰にしろ。二度と愚物によって汚されぬ様に」
「判りました」
その言葉と同時に黄理は膝を付き静かに倒れ伏した。
「御館様!!」
「晃・誠!!直ぐに御館様を里に!!」
「わ、判った!!」
「志貴、お前は??」
「御館様の命を遂行したら時南の爺を連れてくる!!」
「「判った!!」」
その言葉と同時に誠と晃は黄理の身体ともげた片腕を持ちその場を後にする。
そして志貴は
―極鞘・朱雀―
『神剣・朱雀』を呼び出し紅摩の身体を一閃する。
その瞬間、業火が最後の紅赤朱を灰に変え、紅蓮の炎は未だ明けぬ空を天高く焦がしていった。
完全に灰になったのを確認すると志貴の周囲に風が満ち、その地から一瞬で後にした。
僅かな名残の灰はその風に四散し周囲の地形のみがその場での死闘を物語っていた。
一方里では最初こそ勝利・・・と言うよりも全員が無事である事に沸いていたが晃達が戻ってくると同時にその空気は一変する。
晃と誠の二人に抱えられた黄理は全身傷だらけ、あまつさえ片腕はもぎ取られている。
呼吸こそしているが顔色のそれは死者をも思わせる。
「御館様!!」
「「お父さん!!!」」
真姫と翡翠・琥珀の悲鳴に近い絶叫が交差する中志貴がまさしく高速で時南宗玄を連れて来た。
「爺さん!!早く診てくれ!!」
「判っておる・・・」
そう言いながらてきぱきと宗玄は黄理の容態を診ていく。
「爺さんどうなんだ?」
「かつてのお主と同じく傷こそは致命傷を避けている。出血もそう多くは無い。止血もしっかり行っておるから命に別状は無いじゃろう」
宗玄の言葉に里の人間は大きく安堵の息を吐く。
「しかし、問題はこの腕じゃな。切り落とされたと言うよりは引き千切られたというのが相応しい。断面の細胞もこの分では崩壊しておる筈だろう。縫合できるかどうか・・・更に仮に出来たとしても以前と同じ様に動くかも疑問じゃろうな・・・」
「・・・ならその腕は廃棄しろ」
「ふん気がついておったか・・・また死に損ねたな」
「うるせえこのヤブが」
何時の間に気付いたのか黄理が悪態をつく。
「御館様、ご無事で・・・御館様・・・」
半分涙声となった真姫の髪を右手で軽く梳いてやる。
「義手に心当たりがある。ともかく傷の手当てだけ行え」
「・・・判った」
そして、一ヶ月後・・・
「今帰った」
「父さん、お疲れ様」
「ああまったくだ・・・ったく病み上がりを散々こき使いやがって」
居間に着くと同時に掛けられた志貴の労いの言葉にしかめた表情で返す。
「仕方ないよ。今までは俺が代理で出来たけど今回だけは父さんで無いといけないんだから・・・遠野との和解は」
そう、この日は遠野と七夜の和平条約締結の日であった。
それまでの準備は黄理が療養中の関係上、息子志貴が準備に追われていたがこの調印に関しては黄理が代表でなければならない為この日、里を下りて三咲町にやって来た訳であった。
ちなみに今家には志貴と黄理しかいない。
他のメンバーはやはり夫に付き添ってきた真姫と共に夕飯の買出しに出掛けている。
最初の頃はギクシャクしていたのだが、やはり常の性格の所為なのか、何時の間にか真姫はアルクェイド・アルトルージュ・シオンとも打ち解けるようになっていた。
「まあ・・・それを言われればその通りなんだがな・・・」
「それでどうだった?父さん」
「ああ、一区切りついた。これで少なくとも四季が生きている時代は遠野と七夜が争う事はなくなる。これが詳しい和平条約だ」
「へえ・・・随分と本格的だな・・・」
「ああ、有間の当主が中心となって作ったらしい」
それは確かに事大なるは不可侵地域の指定から細かい所では一個人に関係する所まで、条文が三十にも渡り連ねられていた。
「それと刀崎と久我峰は?」
「それも先日、前当主達を四季が処断し、彼らの息子に当主の座は移ったようだ」
「なるほどね・・・遠野も世代交代が完成したと言う事か・・・」
「ああ、そう言う事だ」
「そうなると俺達の仕事もこれで一段落か・・・」
「ああ、一段落だが・・・」
そこでニヤリと黄理が笑う。
「少なくともお前達が高校に通う事については最後まで貫いてもらうぞ」
「そう言うだろうと思った・・・それについては判っているよ・・・それより義手の具合は?」
「ん?ああ、こいつか・・・俺の想像以上にしっくり合う」
そう言って左の義手を動かす。
「先生の・・・お姉さんなんですよね?それ作ったの」
「ああ、あんな破壊魔の妹がいると思えないほど多芸な奴だ」
あれから黄理は、宗玄の手当てや志貴が呼んだエレイシアの神聖治療の甲斐あって、腕以外が完治すると直ぐに蒼崎青子を呼び彼女と共に何処かに姿を消した。
それから一週間後、ようやく戻ってきた彼の左腕には本物と見間違うほど精巧に出来た義手がはめ込まれていた。
青子曰く『くそ姉貴と三日三晩殺し合いをやってようやく作らせた』との事らしい。
後日、エレイシアから聞いた話によると蒼崎姉妹の仲の悪さはこの世界では有名過ぎるほど有名らしい。
"この二人が本気で喧嘩をすればユーラシア大陸が半分消し飛ぶ"とか、"この姉妹喧嘩に巻き込まれる位なら二十七祖全員と戦った方がましだ"とか、およそ良い仲とは思えない。
「でもどう言った原理なんだろ?義手を動かせるなんて・・・」
「さあな・・・まあ便利だからな・・・重宝させてもらおう」
「そうだ・・・ね・・・ん??へっ!!!」
相槌を打ちながら条文を読んでいたが不意に絶句した。
「??どうした志貴」
不審がった黄理が尋ねると
「父さん・・・なにこれ?」
「何とは・・・なんだ?これは・・・」
志貴の指差した箇所を覗き込んだ黄理もまた絶句した。
そこに書かれていたのは要約すれば遠野家の者は七夜に一名人質を差し出す事を明記したものだったが、そこの補足で以下の事が書かれていた。
『尚、人質については遠野四季の妹遠野秋葉を差し出し、卒業後は七夜志貴と結婚させる事』
「父さん・・・これどう言う事?」
「俺に聞くな・・・」
志貴は何の疑問なく黄理に疑いを向けていたが肝心の黄理が唖然とした表情を見せている。
「これ・・・父さんが企んだんじゃ・・・」
「馬鹿な事を言うな。こんな事を仕組んだら俺は今度こそ真姫に殺される。しかも・・・これはいわば政略結婚と言う事・・・そんな事を認めるには・・・」
黄理が呟いた時、乱暴にドアを叩く音がした。
「志貴!!開けろ!!」
「四季??」
扉を開けると同時に怒りの形相の四季が志貴の胸倉を掴む。
「四季??どうした??」
「どうしたもこうしたもあるか!!貴様、秋葉の人生をめちゃくちゃにする気か!!」
「へっ??」
「この条文だ!!」
そう言って四季は今まで志貴と黄理を呆然とさせていたあの条文を志貴に突きつける。
「ちょっと待て四季、これはお前達が提出したんじゃないのか??」
「馬鹿か!!何でそんな事をしなけりゃならない!!秋葉を七夜に強引に嫁がせる位なら俺が七夜で幽閉されてやる!!!」
激怒した四季の否定にすっかり見当がつかなくなった。
「父さんどう言う事??」
「俺に聞くな・・・」
「な、なんだと??」
落ち着いたのか四季までもが唖然とした表情で互いの顔を見やる。
「あら?お兄様」
すると当の秋葉がやって来た。
「あ、秋葉??お前どうしたんだ??こんな所に?それにその格好は??」
四季が絶句するのも当然である。
秋葉は薄い紺を基調として真紅が鮮やかな紅葉の柄の着物を身に纏い振り袖姿で現れたのだから。
その姿は僅か十五歳の少女とは到底思えない。
秋葉本人の気品もあるであろうが・・・
「はい今日は結納のご挨拶に参りました。・・・兄さんに」
「「「はあ???」」」
秋葉の頬を赤らめて答えた返事に男三人が更に間の抜けた返事で返す。
それを無視して秋葉は三つ指を立てて志貴と黄理に向かい。
「兄さん、そしてお義父様、不束者でございますがよろしくお願いしたします」
その挨拶に時は完全に止まり、この場にいた三人は凍りついた。
しかし、直ぐに起動を果たした者がいた。
「お、おい!!秋葉!!どう言う事だ!!」
「どう言う事というのは何に対してでしょうか?お兄様」
「全部だ全部!!お前が結納だの振り袖を着ているだの志貴を『兄さん』と呼んでいるだの・・・」
「四季少し落ち着け。取り敢えず秋葉に聞いた方が一番手っ取り早いぞ」
大混乱をきたしている四季を見て落ち着いた志貴は改めて秋葉に向き合う。
「取り敢えず説明お願いできるかい?秋葉」
「はいもちろんです」
志貴の問い掛けに頬を紅くして答える秋葉。
「その様子からするとあの条文を知っている様だけど・・・何処で知ったんだ?」
「はい、あれは私が有間の叔父様にお願いしたものです」
「な、なにぃ!!」
「でもなんで?」
「お兄様の事ですから私に負担を掛けぬ方法でこれから七夜に償いを成されるのは判っておりました。昔からお兄様はとても優しい私の自慢の兄ですから」
にっこり笑う秋葉に四季は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「ですが・・・お兄様のご配慮は本当に嬉しい・・・でもそれだといけないと思うのです。何時までもお兄様のお荷物ではいけない。私も遠野である以上私もどの様な形であれ負担を背負うのは至極当然だと思います」
「それはそうだが・・・しかし、何でこんな政略結婚みたいな申し出を?」
秋葉の答えを正当なものと見た黄理が困惑した様に呟く。
強制された様であれば秋葉を説いてやめさせる事も可能であったがそのような素振りがないだけにどう対処していいかわからない様だった。
「それは・・・」
その問い掛けに秋葉は更に頬を赤くして志貴に寄り添う。
「私が兄さんに恋をしておりますから・・・愛のある政略結婚でしたら問題は無いかと」
「へっ??」
「な、なにぃぃぃぃ!!!」
二人のシキは対照的な反応を示した。
志貴は完全に間の抜けた返事を返し、四季はこの世の終わりであるかの様な絶望的な絶叫を発する。
「し、志貴ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ちょっと待て!!四季!!なんで俺を!!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!秋葉を返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
完全に修羅と化した四季が志貴を殺さんばかりににじり寄ったが
「お兄様!!兄さんに・・・いえ私の良人(おっと)に手を出さないで!!」
秋葉が身を挺して立ちはだかり致命的な一言を発した。
この瞬間、四季の糸が切れたのか見事に白目を向き気絶してしまった。
「四季??」
「大丈夫の様だな・・・気を失っただけだ」
「よほどショックだったようだな・・・」
「取り敢えず・・・秋葉この件についてはまた日を追ってと言う事で」
「はい、兄さん、今日は挨拶だけですのでまた後日正式に結納の儀式を行わせて頂きます。それではこれで」
「そうか・・・そう言えばどうして俺を『兄さん』と??」
「それは簡単です。私にとってはお慕いしている二人目の異性の方ですから」
朗らかな笑顔でそう言うと、何処からとも無く現れた侍従と思われる男性が未だ気絶している四季を連れて秋葉と共に立ち去っていった。
「・・・父さん・・・どうする??」
「今日は・・・地獄になりそうだ・・・」
顔を見合わせて溜息を吐いた親子だった。
その後、帰宅してきた真姫達にその話をした所(後回しにすれば被害が更に大きくなる)真姫ら女性陣は予想通り大激怒。
その経過は話す事は出来ないが、黄理は自分の妻に冥府に送られるものと覚悟を決め志貴は志貴で、
「「「「「こうなったら既成事実を作って志貴(ちゃん・君)と先に結婚する!!!」」」」」
と五人に迫られるで、二人とも形は違うがまさしく修羅場を経験したのであった。
こうして遠野と七夜、混血の一大勢力と退魔最強の暗殺者一族の抗争はこの様に終結を迎え、『真なる死神』の間にも一時の間であるが平穏が訪れた。
これより先の話は本来の主流とは関係の無い支流の話を暫ししよう。
この長い物語には関係の無い話かもしれない。
しかし、歴史とはその様な支流が幾つにも積み重なって生まれるものであるから・・・